2023年宮澤エマ初主演舞台「ラビット・ホール」を観て|ネタバレ感想

この記事にはプロモーションが含まれています。

舞台

2022年、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で主人公北条義時の妹「実衣」を愛らしく演じた宮澤エマ。

その宮澤エマの初主演舞台が2023年4月にPARCO劇場を皮切りに全国4都市で上演されました。演目は2007年にピュリツァー賞を受賞した「ラビット・ホール」。

その「ラビット・ホール」が第31回読売演劇大賞優秀作品賞、女優賞、最優秀演出賞、最優秀スタッフ賞として選出されました。おめでとうございます。

しかも、最優秀賞の中で選ばれる第31回読売演劇大賞は演出の藤田俊太郎が選ばれ、本当に素敵な作品を観たのだとあらためて感動しています。

私は「ラビット・ホール」を観劇して、この作品が大好きになりました。またこの素晴らしい作品が注目されることを願って、ネタバレを含む感想を残します。

※本当は「様」とつけたいですが、敬称略です。

舞台「ラビット・ホール」について

舞台「ラビット・ホール」は、アメリカのデイビッド・リンゼイ=アベアーが脚本を手掛けた作品です。アメリカでは、ピュリツァー賞を受賞し過去に日本でも上演されています。

英語の表現として、”go down the rabbit hole”は「こことは違う世界に迷い込む」などの意味で使われています。「不思議の国のアリス」由来の表現と言えばイメージが付きやすいと思います。

この「ラビット・ホール」の意味を考えながら観劇すると、物語の伝えたいことや世界観を理解しやすいです。

舞台「ラビット・ホール」登場人物

舞台「ラビット・ホール」は登場人物が5人しかいません。

  • ベッカ(Becca)演:宮澤エマ…主人公
  • ハウイー(Howie)演:成河…ベッカの夫
  • イジー(Izzy)演:土井ケイト…ベッカの妹
  • ジェイソン(Jason)演:阿部顕嵐、山﨑光(ダブルキャスト)…ベッカの息子ダニーを交通事故で失う原因になった高校生
  • ナット(Nat)演:シルビアグラブ…ベッカの母

物語はほぼ会話のみで進行するため、会話でしか登場しない人物もいるので名前を覚えておくといいです。

  • ダニー…ベッカとハウイーの息子
  • オーギー…イジーの夫
  • そのほか…「遺族の会」のメンバー、ハウイーの同僚(友達?)、ベッカの友達、オーギーの元カノなど

海外の名前でなじみがなく、誰が誰だかこんがらがることもありますが、「ダニー」を覚えていれば、なんとかなります。

舞台「ラビット・ホール」あらすじ(ネタバレ)

「ラビット・ホール」は大きな謎が解けたり、最後にどんでん返しがあるようなストーリーではないので、ネタバレすると楽しさが半減するような作品ではないですが、ちょっとでもネタバレしたくない方は、読み飛ばしてください。

4歳のひとり息子を亡くした若い夫婦ベッカとハウイー。息子は、飼い犬を追いかけて飛び出し、交通事故にあった。ふたりの悲しみへの向き合い方は真逆で、お互いの心の溝は広がるばかり。妻ベッカは、彼女を慰めようとする妹や母親の言動にもイラつき、深く傷ついていく。ある日、事故の車を運転していた高校生ジェイソンから会いたいと手紙が届く。それを読んだベッカは・・・・
引用:PARCO STAGE

2023年上演の舞台「ラビット・ホール」の見どころ

私は、多いときは月1本以上舞台を観ているのですが、2023年のPARCO劇場開場50周年記念シリーズ「ラビット・ホール」は、これからもずっといい作品として挙げたくなるくらい感動しました。

観劇して数か月経っても、フワフワとあれはどう意味だったのかなとか考えたりするし、今後、大切な人を失ったときに必ず思い出す作品なんだろうなと思っています。

そこで、ストーリー上の見どころというより、2023年の藤田俊太郎演出の「ラビット・ホール」を見て感動した点を中心にまとめました。

ベッカと各登場人物との1対1の会話劇

ベッカは劇中で、イジー、ハウイー、ナット、ジェイソンそれぞれ1対1で会話するシーンがあるのですが、交通事故で亡くしたダニーに対する思いや考え方が少しずつ変化していっていたのが良かったです。

違和感のない日本語の会話劇

「ラビット・ホール」上演にあたり、宮澤エマをはじめとするバイリンガルのキャスト陣が演出家、翻訳家を交えて、徹底的にセリフをブラッシュアップしたそうです。

洋画の吹き替えのような会話をそのまま上演する翻訳劇が多い中、海外の方を真似たような会話ではなく、そのまま設定を日本に置き換えても成立するような、違和感のない会話劇でした。

違和感のないセリフを生み出すのにかなり推敲やディスカッションを重ねたのだろうなと言うのが、観ていて伝わってきました。

映像作品のような細やかな演出

舞台「ラビット・ホール」は全幕を通じてベッカとハウイーの自宅で展開されます。

大きなアクションもほとんどなく、1対1の会話が多くを占めています。

この1対1の会話を通じて、ベッカの心情が少しずつ変わっていく様がとてもこまやかで映画を観ているような気分になりました。

特に物語の後半のベッカとジェイソンがベッカの自宅で会話しているとき、ベッカが徐々にジェイソンに対し、亡くした息子ダニーを重ねて見てしまうところに心打たれました。

演出家の藤田俊太郎は蜷川幸雄の演出助手出身で、「ラヴ・レターズ」などの朗読劇や「ジャージー・ボーイズ」などのミュージカルの演出も手掛けており、菊田一夫演劇賞や読売演劇大賞の受賞歴もあります。

今回「ラビット・ホール」を観劇して、ほかの作品も観てみたくなりました。

洗練された美術

セットは前述の通り、ベッカとハウイーの自宅です。

2階建てのセットで、1階の上手(客席から見て右)がリビング、下手(客席から見て左)がダイニングキッチン、舞台中央に階段があり、2階は上手のみで子供部屋です。

海外ドラマに出てくるような洗練されたカウンターキッチンにリビングには白い革のソファー、2階は水色っぽい小さなベッドがあって男の子がいたんだなと想像させられます。

舞台中央の階段だけ、実際に家にありそうな階段ではなく、白い枠だけの階段なのが、不思議な感じがしました。

階段の後ろを人が通ったりするのをわかりやすくするためのものなのか、ウサギの穴(ラビット・ホール)に迷い込んだ世界を表現しているのか、現実とダニーがいた世界をつなげるための階段という意味なのかなど、いろいろと考えたりして楽しかったです。

美術を手掛けた松井るみは、多摩美出身の舞台美術デザイナーです。
私が観たことがある作品では、「ショーガール vol.2」(2018)、「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」(2019)、「モーツァルト!」(2021)など、三谷幸喜演出、小池修一郎演出作品を多く手がけているので、「ラビット・ホール」もとても楽しみにしていました。

おいしそうな食べ物たち

ベッカは息子ダニーを失った喪失感を埋めるために、いつも手の込んだお菓子を作っています。

クレームキャラメル、レモンスクエア、イジーの誕生日ケーキなど、実際に盛り付けたり食べたりするシーンもあるので、客席から観ていてとてもおいしそうでした。

ニコールキッドマン主演|映画「ラビット・ホール」と舞台の異なる点(ネタバレ)

「ラビット・ホール」は2010年にアメリカで映画化されています。

ニコール・キッドマンが製作・主演しアカデミー主演女優賞にもノミネートされました。脚本も舞台と同じデイビッド・リンゼイ=アベアーが手掛けているので、ストーリーの軸は大きく変わっていないです。

私はアメリカ文化や風習に詳しくないので、会話に出てくるだけだと想像するのが難しいところもあり、実際に映像になっているのを見られたので、補助教材的な感覚で楽しめました。

映画「ラビット・ホール」はVODでは取り扱いがなく、TSUTAYAのDVDレンタルで観ました。

ここでは、映画と舞台で異なる部分を挙げていきます。

会話に挙がった内容が映像になっている

ベッカとハウイーの家で繰り広げられる会話には登場人物以外の人もたくさん出てきます。

ハウイーと一緒にスカッシュする仲間たち、「遺族の会」の参加者たち、ダニーのことで気まずくなってしまったベッカの友人など…。

これらの人物とのシーンを映像で見ることができるので、イメージしやすかったです。

ジェイソンが書いているのは小説ではなくコミック

舞台ではジェイソンはSF小説を書いていて、冒頭の「〇〇に捧ぐ」の部分をダニーにしていいかという許諾を得るために、ベッカとハウイーに手紙を書きます。

これは映画だから視覚的にわかりやすくしているのかどうなのか不明ですが、映画だと小説ではなくコミック(漫画)です。

映画の随所に「ラビット・ホール」を通じて様々な世界へ移動するジェイソンが描いた物語の登場人物が出てくるのも面白かったです。

ベッカが削除するのはハウイーの携帯の動画

物語の中盤でベッカがダニーが生きていたころの動画を間違って削除する場面があります。

舞台だとVHSですが、映画だとハウイーの初期のころのスマホの動画という設定です。

これは正直、VHSのほうがリアリティがありました。ビデオテープ入れっぱなしにして録画消されちゃうのあるあるでものすごく懐かしかったから。

2010年はHDD録画の人が増えてきていてVHSだと現実感がないと判断したのか、2010年ごろにスマホを持っている人が増えていたからなのかは不明です。

ベッカとジェイソンの出会い方

舞台だとベッカとハウイーが自宅を売却するためにオープンハウスにしているときにジェイソンは現れます。

映画だと、街中でジェイソンを見かけたベッカがジェイソンのスクールバスを車で追いかけて、ジェイソンが気付くという演出でした。

その後、映画では、公園でベッカとジェイソンが会話をします。舞台では同じシーンをベッカの家で行います。

映像的に、場所を変えたほうが飽きが来ないと判断し、公園で会話するための演出なのかなと思いました。

ラストシーン

ラストシーンは舞台と映画でそれぞれ異なります。結末が違うというのではなく、映画には映画にふさわしい締め方で終わった感じで、とても良かったです。

舞台のラストは、ベッカとハウイーのダニーの死への向き合い方が物語冒頭よりも少し同じ方向になってきたと感じるシーンで終わります。

映画だと、そのあとのダニーを失ったときにぎくしゃくして音信不通になったベッカの友人家族とバーベキューをするシーンで終わりました。

まとめ

いかがでしたか。今のところ、DVDになったり、テレビなどで放送されるという案内はないです。

素敵な作品なのに後から見たいと思っても見られないのは残念ですが、再演などあればまた見に行きたいです。

タイトルとURLをコピーしました